ここでは、人が凍傷になるまでにどれくらいの時間、寒さに耐えられるのかについて、「寒さ」を感じるメカニズムをもとに、科学的に分かりやすく紹介します。
誰もが凍傷は冷たい空気によって起こると思いがちですが、実のところ、気温だけが凍傷の要因ではありません。冷たい風もまた、凍傷までどれだけ体がもつかに大きな影響を与えます。
私たちの体の血液は、極端な寒さのもとでは、内臓器官(深部)と頭を優先的に温かく保とうとします。
すると、血管は収縮して血流が悪くなり、手や足など体の末端の温度が下がりやすくなるため、特に外気に触れる部位は、凍傷の危険にさらされます。
手足の感覚はなくなり、次第に青白く硬くなっていき、ひどくなると、細胞の懐紙や神経の損傷を引き起こす深刻な病気です。
以下に「寒さ」を感じるメカニズムをみていきましょう。
凍傷の原因
凍傷は、極端な寒さだけでなく、体幹温度を下げる冷たい風や雨も懸念すべき大きな要因となります。
すなわち、極端な寒さのもとでは、風が強いほど体の表面から熱が奪われやすくなり、より一層肌が感じる寒さの程度が強くなるのです。
それでは実際に、凍傷になるまで、人はどれくらいの時間、寒さや風に耐えられるのでしょうか?
下記に、アメリカや寒い地方で凍傷や低体温症を防ぐために用いられる風速冷却の基準をもとに、低温と風にさらされた時間に応じて、凍傷にかかるまでの時間の目安を紹介します。
「気温と風速」と凍傷の関係
- -12度(摂氏)
- 風速24mから26m毎秒(以下msと記述)、つまり木々が揺れるほどの激しい風において30分
- -17度
- 風速6.7msから22ms(小枝が揺れる程度から木全体が揺れる風力の間)で30分、24ms以上(木全体が揺れるほどの風)で10分
- -26度
- 風速2.2msから8.9ms(葉や小枝が揺れる程度の風)で30分、26.8ms以上(木全体が揺れるほどの風)で5分
- -28度
- 風速2.2msから4.8ms(木の葉が揺れる程度)で30分、6.7msから15.6ms(太い木の枝が揺れるほどの風)で10分、約16msから26.8ms(木全体が揺れるほどの風)で5分
- -40度
- 風速2.2msから4.8msで10分、4.5msから26.8msで5分
凍傷の予防について
2017年2月9日、マサチューセッツ州ボストンには大雪が降り、人々は、白い吹雪の景色の中を歩いていました。
朝のニュースで気象台は、次のように警告しました。
気温は極端に下がりませんが、凍傷や低体温の危険性には十分に注意してください
低温に加えて、湿った雪と強風は、体温を著しく低下させる可能性があり、皮膚が濡れていたり、または、露出して冷たい空気に触れたりすると、はるかに熱が奪われやすくなるためです。
なかでも、指先やつま先、耳たぶ、鼻の先は最も凍傷になりやすい領域です。
そのため、登山や寒い地域へ行くときには、手足を手袋や通気性のよい靴下で覆い(濡れたままにしない)、体を締め付けない防寒着を着て、体の内部を温かく保つ必要があるのです。
寒さを感じるとき、体や脳では何が起こっているのか?
通常、体の一部が冷えすぎると、赤くなって痛みを伴いますが、それを超えて凍傷になると、感覚や血色が失われ、ただちに医師の受診を受けなければならなくなります。
私たちは、皮膚の神経が冷たいという刺激を脳に送ることで寒さを感じます。
この神経インパルスは、ただ皮膚の温度に反応するだけでなく、皮膚の温度変化率も敏感に察知します。
水中にしばらくとどまった後の方が体が冷えているはずなのに、水に入った瞬間の方が、皮膚の急激な温度差によって寒く感じるのよ。
神経インパルスは、皮膚の温度の急激な変化が、体の深部(内臓器官)の温度を低下させ、致命的な低温症を起こす可能性があると、脳に警告するのです。
脳の視床下部は、神経インパルスから寒さの情報を受けた後、低体温症の発生を防ぐために、体の深部体温の低下を防ぐように各神経系に指示を出します。
それによって筋肉は、震えによって余分な代謝熱を発生させ、血管は、体の深部の血液の熱の放出を防いで温かく保つために収縮し始めます。
そして、脳の知覚や推理などの知性をつかさどる領域「大脳皮質(だいのうひしつ)」では、寒さに対する情報を識別して、感情や衝動を担う「大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)」からの情報と結合させ、寒さの度合いに応じた衣類の着用などの行動を促す指令を出します。
低体温症とは
体温が35度以下になったら低体温症になります。
低体温症は、通常の体温よりも低ければ度合いに関係なく起こり得ます。
それは、体脂肪や年齢、飲酒などによる影響を受けやすく、池や湖などで水に落ちると、状況はさらに悪化するでしょう。
※池や湖などで水に落ちたときのリスクについては、こちらをご覧ください。
例えば、-0.3度以下の水温下では、15分から45分以上生きることはできないといわれています。
米国沿岸警備隊によると、最初の2分間でショック状態になり、30分以内には機能障害を経験します。
冷え性といわれる人たち
健康な人の中には、同じ環境下でも、他人より寒く感じやすい人もいます。
双子の研究では、手足が冷えやすい人は、温度知覚に関する遺伝的な要素の影響が高いことも示されています。
また、しばしば女性は、男性よりも寒がりだといわれますが、これはおそらく、皮膚温度が低く、皮下脂肪とエストロゲンと呼ばれる女性ホルモンの影響だと考えられています。
参照元:
・How Long It Takes To Get Frostbite
・How long you can stay outside in extreme weather before getting frostbite
・WHAT HAPPENS TO YOUR BODY WHEN ITS GETS COLD