フグは、猛毒をもつ魚として知られながらも、美味しい珍味として全国に出回っています。
海外では、毒のイメージが強すぎてロシアンルーレットのような扱いを受けることも多いふぐ食ですが、日本では、縄文時代にさかのぼるほど古くから馴染みのある食材のひとつ。
また、高たんぱくで低脂肪なうえ、コラーゲンをたっぷりと含んだフグは高級魚としても認知度が高く、ハイシーズンにもなるとぐっと値が上がります。
そもそも、日本においてフグがこれほどまでに高くなったのはなぜでしょうか?
それを解き明かすために、ここでは猛毒をもつといわれるフグが、どのようにして私たちの口に入るのか、その流通やレストランでの提供のされ方、漁獲量などをもとに考えていきます。
高級品としてのふぐ料理
フグにはおよそ120もの種類がありますが、日本政府によってレストランでの使用が許可されているのは22種類。
一般的に食べられるのは、マフグやゴマフグ、カラスフグなどで、なかでも、最も高価で猛毒をもつと知られるのが「トラフグ(虎河豚)」。「冬の味覚の王様」といわれるほどおいしく、知名度が高いにも関わらず、身と皮、白子(精巣)といった一部分しか食べられない高級魚です。
高級なふぐ料理といえば、お皿が透けてみえるほど薄く切られたふぐ刺しが有名です。その他にも、こんがりと焼いたひれを熱燗にひたしたふぐひれ酒、ふぐ鍋などは、寒い季節になると人気が高まります。
そして、これらのレストランや業者が使用するフグの多くが、市場から調達されたもので、都市部には、瀬戸内海のフグを空輸便で生きたままの新鮮な状態で調達している店もあります。
日本でただ一つのフグ専門市場での競り
瀬戸内海にあり、日本でただひとつのフグ専門の卸売市場といわれる山口県下関市、南風泊市場 (はえどまりしじょう)では、朝早くから「袋セリ」といわれる伝統的なセリのやり方でフグの取引が行われます。
この市場には、長崎など他県からもフグが集まり、全国への流通の起点となっています。
袋セリとは、黒い袋の中で、売り手と買い手がお互いの手の握り方で価格交渉を行っていくスタイル。声のかけあいによるオープンなセリとは違って、水面下で他者には知られずに価格を競い合います。
全ての買い手が順番に売り手に手で価格を伝えた後、最高値を出した者がフグを購入できるのです。
有毒なフグ毒
フグのような有毒な食品の販売において、最優先事項はなんといっても安全。
2018年、愛知県のスーパーマーケットで、有毒部位である肝を取り除かないまま5パックのフグを誤って販売してしまう事件がありました。その後、県をあげての危機管理への徹底指導が行わたのは記憶に新しいことです。
フグが人を死にいたらしめるほど有毒であるといわれるのは、「テトロドトキシン」と呼ばれる神経毒が含まれている恐れがあるからです。
テトロドトキシンは、シアン化物よりも毒性が強く、毎年20件以上に及ぶ中毒事件が不適切な調理によって起こされ、死者も出ています。
フグの生態は変化している
エラ、心臓、胆のう、腎臓、肝、卵巣、目玉など有毒な部分は産地やフグの種類によって異なり、近年ではさらに区別が難しいハイブリッド種(交配種)も現れています。
海の環境変化の影響でフグの生育域が変わり、在来種と新たに加わった種による交配がすすんだことで、見た目は同じようでもどこに毒が含まれているかが分からないような新種が生まれたことが、無毒なフグの種を言い当てるのを難しくしています。
特に区別が難しいとされるのは、非常に毒性の強いメスのフグの卵巣と、オスの睾丸です。
フグ料理は免許資格制度によって安全管理されている
調理法をひとつ間違えば、毒で死ぬ恐れもあるので、政府は、ふぐ調理師という免許がないかぎり扱えないように厳しく規制しています。
実のところ、フグで命を落とす人の人数は、牡蠣に比べてはるかに少ないようです。
調理資格を取るための制度は、都道府県によって異なり、フグの種類や種別に食べられる部位への知識、20分以内に刺身までさばく実技、実務経験などが求められます。
このようにして試験を突破した有資格者のいる専門店でしか食べられないことが、フグを貴重で高価なものにしています。ちなみに東京都では、ネット通販に多い加工製品などでは規制がゆるくなり、保健所への届け出を行えば、ふぐ調理師以外の人でも販売できるように改正されました。
料亭では、さばく直前にフグを絞めるところもあります。生きたまま神経抜きが行われ、くちばしを落とし、皮が取り除かれた後、内臓の処理が行われてから刺身におろされるのです。
包丁をさすと、フグがまな板の上でピチピチと動く過程は恐ろしいように見えますが、筋肉が痙攣(けいれん)し続けると、魚は脳死しています。
フグの数の減少
さらにトラフグがより高価になる別の理由もあります。
小型はえ縄船の急増、また、冷凍技術の発達によってこれまで需要が減っていた時期も漁獲されるようになったなどさまざまな要因による乱獲です。
トラフグは危機に瀕しており、2005年に日本政府は、各水域における季節ごとのふぐはえ縄漁業の漁獲量を制限しました。
輸入品として人気のタキフグにおいては、過去45年間で99.9%減少したようです。
これらの魚は、養殖によってはるかに安くなり、フードチェーンや身近なレストランでも見られるようになりましたが、養殖ものは供給が安定しておらず、日本の消費者には天然ものとの味の違いからなかなか受け入れられないようです。
まとめ
このように、天然フグの価格は、専門のシェフが安全に調理することを保証するうえ、漁獲数の減少も加わってさらに高価格になっているのです。
参照元:
・Why Puffer Fish Is So Expensive | So Expensive
・九州・山口北西海域トラフグ資源回復計画