生き物には、人間が、仕事を休むために病気のふりをしたり、女性とデートしたいがために身長を偽ったり、挑発されるとはったりをかましたりするのと同じように、相手を意図的にだます、いわゆる「ウソ」が上手な種がいます。
彼らは、生きていく上での繁殖や闘いの場面で、なんらかの理由があってウソをついているようです。
今回は、あらゆる種のなかでも、ずば抜けてウソが得意な7種の生き物を紹介します。
さて、あなたは、動物界で最も優れたうそつきはどんな生き物だと思いますか?
体を半分だけメス化して高確率で受精を成功させるイカ
コウイカの一種「カトルフィッシュ」は、一瞬にして体の色を変えることで有名です。
カトルフィッシュの擬態テクニックは、捕食者に対するカモフラージュや潜在的な仲間を区別するときだけでなく、恋のロマンスにとても便利な役割を果たします。
たとえば、メスのイカが、斑点からなる迷彩模様のような柄であるのに対して、オスのイカは、求愛中に自分の体をよく目立つ白クロのシマ模様で彩る傾向があります。
このような求愛中のオスとメスの模様の違いを利用して、生殖を成功させる可能性を高めるために擬態テクニックを身に着けたのが、「スニーカー」と呼ばれる恋に不利な小柄のイカです。
繁殖期が近づくと、イカは恋の準備のためにグループになって集まり始めますが、
通常このグループは、オスの数の方が多いため、メスは逆ハレム状態で、オスを理想高く慎重に選ぶようになります。
そのとき、スニーカーは、不利な状況を打破するためにある行動にでます。
自然界では、メスは、生存や繁殖に有利に働く体格の大きなオスを本能的に求める習性があります。
そこで、スニーカーと呼ばれるオスは、メスに求愛して交尾するまでの大変な作業をすべて大柄で強そうなオスに任せて、最後の手柄だけこっそりと横取りして、メスの卵を受精させてしまうのです。
それでは、スニーカーがもつ素晴らしい擬態テクニックとはどのようなものなのでしょうか?
まず、スニーカーは、求愛中のオスとメスの間を泳ぎます。
その時、彼は、色を身体の真ん中で分け、左右全く違う模様にし、オスに見える側はメスの迷彩模様に、そして、メスにはオスのシマ模様を見せるようにして泳ぐのです。
イカが体の色を変えるには、細い筋繊維が必要です。イカの皮膚内にある色素胞(色素細胞)につながった筋繊維を収縮させて、色素胞を大きくしたり小さくしたりして、体色を変化させます。
このようにしてライバルのオスの目を欺きながら、メスの卵を受精させるわけですが、これが80%というかなりの確率でうまくいくと示した研究もあります。
しかし、ほとんどの場合、他のメスが体格の大きなオスに寄ってくる隙をついて受精に成功しますが、オスが近くに複数いたり、元のオスに気付かれたりすると難しいようです。
求愛のために、自分を偽るのはイカだけではなく、私たちの身近にもいます。
おしっこの高さで背を偽ってメスにアピールする犬
犬は、おしっこでコミュニケーションを取ります。
これが「マーキング」と呼ばれる行動です。
犬の散歩をする人なら知らない人はいないかもしれませんが、オスの犬のマーキングには、特に多くの意味が含まれています。
おしっこの匂いには、その犬の年齢や健康状態、生殖状態、家系のように多くの情報が含まれています。
匂いとともに、重要なのが、おしっこの位置です。
一般的に、成犬のオスは足を上げておしっこをかけますが、そのときの位置は鼻の高さに近いと考えられています。
のため、科学者は、小型犬のオスほど高く足を上げる傾向があるのは、できるだけ高い位置を目指しておしっこをかけることで、自分を少しでも大きく見せてメスにアピールしているのかもしれないといいます。
男性が、女性とデートをするためにプロフィールで背の高さを偽るのと同じで、背が高く見えることが、社会的な立場を後押しするようです。
ハッタリで戦わずして勝つシャコ
シャコは 獰猛な甲殻類で、彼らが作った穴に住んでいます。
その穴は、シャコたちがたむろして食事をする安全な場所です。恋の始まる場所でもあり、交尾後に卵が発育するまでの間守るための重要な場でもあります。
しかし、シャコの住む穴の不動産市場はかなり競争が激しいため、彼らは奪い合いの中で家を守ることを余儀なくされます。
穴の争奪戦では、秒速23メートルにも達する強者も存在するほど、シャコのパンチ力が決めてとなるため、大きな爪をもった大きなオスが有利となります。
しかし、爪の大きさを競って互いに手を振っているだけで終わることが多く、実際に戦うことはほとんどありません。
そこで小さなシャコは、重要な財産である穴を守るためにウソをつきます。
超高速で爪を動かすことで、本当の爪よりも大きく見せるのです。
ただし、実際に闘うことになったら、爪が大きな方が勝ちます。
しかし、大きいシャコでも、時には、体がふにゃふにゃになって戦いに不利な時期があります。
シャコは、他の甲殻類と同じように外骨格が硬いため、一度固まってしまうと、それ以上体が大きく膨らみません。
そのため、大きなオスになるために脱皮しなければなりませんが、脱皮をすると、外骨格が硬くなるまでの間、体がふにゃふにゃで、自慢のパンチも機能せずに弱くなります。
そこで、脱皮したばかりのシャコは、挑戦されるとハッタリをかまします。
彼らは、実際には何もできなくても、ふにゃふにゃの爪を伸ばしたり広げたりして、さも戦う準備ができているように見せかけます。
この戦略は特に小柄な相手にうまく働くようです。
さて、次は、先のことを考えるのが得意なリスの話をしましょう。
穴を掘るフリをしてダマすリス
北米東部のやや大型のリス「トウブハイイロリス」は、食べ物がたくさんあるときには余分に収集し、不足に備えて離れたところに隠しておきます。
そして、他のリスに隠し場所を知られないように巧妙なウソをつきます。
備蓄の欠点の一つは、他の動物に隠し場所がばれてしまうと、苦労して集めた食料が盗まれる可能性があることです。
このリスクを、最小限に抑えるために、リスは、食べ物を埋めるマネをします。食べ物を口に含んだまま、穴を掘って何も入れずに埋めてしまうのです。
複数の穴を掘って、そのうちの数個だけに分けて隠し、見つかる確率を低くすることもあります。
また、1か所に隠すと、そこが見つかったら最後、全てを失う可能性があるので、あちこちの散らばらせて隠します。
しかし、そこまでしても、これらのミニ宝箱があまりにも広範囲に散らばって隠されているので、食料が盗み出されてしまうのも珍しくはないようです。
その場合、他のリスから盗むことで、盗まれた食料を補うこともよくあります。
リスは信じられないほど視覚的認知能力が高いといわれ、食べ物の隠し場所を発見するときにも、目を頼りにします。
彼らは別のリスが掘って乱れた土を見つけると、そこに食べ物があると仮定し、埋めるふりをした領域を掘り始める傾向があるのです。
研究では、別のリスが近くにいると気づいたリスは、より頻繁に偽の穴を掘ることが分かっています。
この戦術は効果があるようで、食べ物が実際に埋められた穴が発見される可能性が低くなるだけでなく、食料のいくつかが略奪されたとしても、他のリスは、たくさんの穴を掘るために貴重なエネルギーを無駄にします。
しかし、食べ物泥棒はいつも他のリスとは限りません。
実験では 略奪者は人間の大学生であったり、フワフワしっぽの齧歯類に出し抜かれてしまったりすることもあったようです。
音(超音波)でコウモリをだまして逃げるガ(蛾)
さて、今までに「ベイツ型擬態」という言葉を聞いたことはありますか?
生き物が、凶暴な捕食者や有毒な種のコスプレをして、自らを強そうに見せる代わりに襲われるリスクを減らすというものです。
一方で、milkweed tiger mothと呼ばれるヒトリガの一種は、有害な種に自らの姿を似せるアートをしない代わりに、特異な音楽的才能を駆使して身を守ります。
このガは、天敵のコウモリがエサを探す時に発する超音波を察知すると、体の一部を振動させて、ある音を出します。
この音は、有毒な種のガ(dogbane tiger mothやpolka-dot wasp mothなど)がコウモリに対して「ぼくを食べたら毒だよ」と警告音として発する超音波を上手にマネた音で、自分は不快な食事であると嘘をつくのです。
科学者は、たとえコウモリに捕獲されたとしても、そのコウモリが過去に有毒な種のガを食べたことがある場合、その超音波を聞いた途端に放すことも確認しました。
ガの種には、その他にも体内からコウモリが不快と感じる毒素や悪臭を出すガ、体から音を発してコウモリの超音波そのものを妨害する種もいます。
ガは、天敵であるコウモリとの長きに渡る戦いによって、超音波を駆使したさまざまな防御戦略を進化させてきたのです。
捕食者ではなく無害な生き物をマネて身を守る鳥
チャイロトゲハシムシクイは、オーストラリア東部やタスマニアなどに生育する小型のかわいい小鳥です。
多くの捕食者にとって、この鳥のサイズは、おやつにぴったり。特にまだ飛ぶのが下手な時期や、若いうちは天敵から攻撃されやすい鳥です。
そこで、この鳥は、子供の安全のために工夫を凝らし、天才的な防御戦略を身につけました。
鳥の多くは、他の種の鳴き声をまねることで、自分が誰であるかのウソをつきます。タカを見ると、タカの鳴き声をマネて他に警告する鳥もいますが、このチャイロトゲハシムシクイは、しばしばミツスイのように無害な鳥のマネをします。
ミツスイには、タカが頭上を飛んだときに出す警告音があります。
しかし、チャイロトゲハシムシクイの場合、タカがいないにも関わらず、ミツスイの警告音をマネて鳴くのです。
それには、タカから身を守るのとは別の理由があります。
サイチョウの巣を狙うフエガラスのような他の鳥を追い払うためです。
ここで驚くべきことは、タカのように彼らにとって直接危険を及ぼす種ではなく、無害な種をまねることです。
もしかしたら、タカの鳴き声をうまくマネできないからかもしれませんが、それは捕食者(フエガラス)が他の種(ミツスイ)の警戒信号を理解していることを意味します。
この場合、ミツスイの警戒音をフエガラスが理解していることになります。
カラスは捕食者ですが、タカを恐れる傾向があるため、このチャイロトゲハシムシクイの防御戦略は効果てきめんなのです。
人間は嘘をつく生き物
人間や私たちに最も近い霊長類は、おそらく地球上で最も優れたうそつきでしょう。
私たちは、欲しいものを得るためにさまざまなウソをつきますが、科学者たちはこれを、脳と協調性が原因だと考えています。
猿や類人猿の脳は、知覚や先の予想、推理、運動、言語などを処理する超巨大な新皮質のおかげでとても大きく発達しています。
これは、お互いに交流したり、社会的な関わりの中で学習したりするために非常に重要です。
しかし、霊長類の大脳新皮質が大きければ大きいほど、嘘をつくことが多くなります。
科学者たちは、これらの大きな新皮質が、そもそも嘘をつき始めたことに関係があるといいます。
霊長類の祖先が集団生活を始めたことによる進化の圧力の一環として、より大きな新皮質が得られた結果、私たちは共通の目標を達成するために協力しあえるようになりました。
しかし、強力し合うなかでも、しばしば個人の利益のために利己的になることもあります。
すると、それが他の人にばれないようにしたり、報復を恐れてだました後の痕跡を隠したりするためにウソは役立ったのです。
最後に
人間の世界だけでなく、野生の社会でも、自己防衛や繁殖的戦略のために、あらゆる動物が巧みにウソを利用して生き抜いています。
素晴らしい言い訳のように聞こえますが、ウソをつくことは、実際には、集団生活で協力していくうえでの必然的な結果なのかもしれません。
そう考えると、ウソを肯定してしまいそうになりますが、病欠の電話をした日付にビーチで撮影したインスタ写真が上司の目に留まるといった困った事件をはじめ、トラブルに巻き込まれる確率はウソによって各段に高くなります。
いずれにせよ、ほとんどの場合、ウソでごまかすよりも、正直であることが最善の策だといえるでしょう。
参照元:
・Animals That Can’t Be Trusted
・Tricky Cuttlefish Put on Gender-Bending Disguise