推定46億歳ともいわれる太陽は、老いぼれどころか、ものすごいエネルギーの塊です。
宇宙のはるか彼方、1億5千万㎞も離れた私たちの地球をも温めることができます。
実は、地球に降り注ぐ太陽エネルギーは、全エネルギーの22億分の1。
しかし、そのわずかな太陽エネルギーがもたらす地球への恩恵ははかり知れないもので、光エネルギーが生む温度差のおかげで地球には大気や潮の流れが生まれ、地上の動植物は酸素や栄養分などの恵みを受けています。
まさに太陽のおかげで、あらゆる生物が生かされているのです。
さて、太陽が星であることはご存知かもしれませんが、それは何でできているのでしょうか?
調査の旅に出ようにも、光なら8分でたどりつけるかもしれませんが、私たちにとってはあまりにも遠く、そもそも熱すぎて近づくことすらできません。
それなのに科学者たちは、どうやって太陽について知ることができるの?
いい質問ね。それについては、コンピューターの無い時代に「太陽のような星が何からできているか」を光を使って明らかにした素晴らしい女性天体物理学者の話から始めましょう。
女性の天文学者が否定されていた時代に、30年以上をかけて名声ではなく、好奇心をもって夢を追い続け、ハーバード大学初の女性教授にまでなった女性です。
太陽は何からできているのか
太陽が何であるかを解明したのは、セシリア・ペイン=ガポーシュキン博士。
彼女は、1920年代に、太陽の大部分が水素(75%)とヘリウム(25%)からなるという大きな発見をしました。
1900年といえば、誰もが太陽のような星はみな、地球と同じように岩石に含まれる鉄のような重くて固い物質からなると考えていました。
たしかに地球にはたくさんの鉄があり、私たちはそれを建物や丈夫なフライパンなど、いろいろな方法で利用していますが、どうやら地球は特殊な星であるようです。
天文学の常識を2年で覆した女性
イギリス生まれのセシリア・ペインは、幼いころから科学を愛し、大学を卒業するころには、天文学者になって宇宙を研究したいと思うようになりました。
しかし、それには問題があります。
セシリア・ペインが女性であることです。
当時、イギリスの大学の責任者たちは、女性が天文学者になれるとは思っていなかったため、女性に宇宙の研究をする場はありませんでした。
後に彼女は、それが間違っていると証明することになります。
1923年、セシリア・ペインは、ハーバード大学の教授が教える女子大生のための学校、ラドクリフカレッジに行くために渡米しました。
そこは、当時の女性が教育を受けられる世界でも数少ない学校のひとつ。あのヘレン・ケラーもこのカレッジを卒業しています。
そして、セシリア・ペインは通い始めてから2年後には、太陽のような星が何でできているかについて、それまでの天文学者が間違っていることに気付きました。
彼女は光の色を見ることで、それを実現したのです。
光を調べて分かること
一般的に、太陽光は白く見えたり、全体的に少し黄色く見えたりしますが、実際には様々な色の光が混ざり合ってできています。
それは、青と赤の絵の具を混ぜると紫になるようなものです。
光の場合はちょっと特殊で、たくさんの色を混ぜると、白色になります。
セシリア・ペインは、特殊な望遠鏡を使って、この太陽から放たれる光の色を観察し、紫、藍、青、緑、黄、だいだい、赤、すべての異なる色を見ることができました。
そして、その色を、太陽が何でできているかを解明するための分類コードのように使い、物質の温度や密度などを計算式で導き出そうと考たのです。
しかし、実際にこれはコンピューターがなければかなり難しい作業でした。
太陽は水素とヘリウムからなる
セシリア・ペインがラドクリフで働き始めた1923年には、誰もコンピューターなんて持っていなかったため、彼女がやろうと決めた仕事は、過去に誰も試みる者はいませんでした。
それは、かなりの集中力と根気が求められる仕事でしたが、彼女の細部への注意や慎重さが実を結びました。
彼女が発見したのは、鉄分など数多くの物からなる地球とは違い、太陽のような星は ほとんどの場合、2つの物質からなることです。
一つめは、水素と呼ばれるもの。
地球上でも見かけることができますが、通常は他のものと混ざり合っています。
二つめは、ヘリウムです。 風船を浮かせるのと同じガスです。
彼女は、自らの力によって、25歳の時、ハーバード大学ラドクリフカレッジの天文学の分野において、女性初の博士号を取得し、偉大な科学者であり、天文学者であること証明したのです。
これより彼女は正式にセシリア・ペイン博士になりますが、論文を出した当初、他の天文学者は、「そんなのは不可能だ」と彼女の説に否定的でした。
ヘンリー・ノリス・ラッセルも、彼女の論文に対して強く反発した一人で、ペイン博士が正しかったと納得させるのに何年もかかりました。
その理由の一部は、彼女が女性だったからです。
女性の壁を打ち破った天文学者
当時、女性は偉大な天文学者にはなれないと考えられていました。
それは明らかに間違っていて、不公平でした。
実際に、彼女は、博士号取得後もなかなか教授にはなれず、低賃金のままでした。
最終的には、他の天文学者たちも賛同するようになり、1956年、ついに、セシリア・ペイン=ガポシュキン博士は、ハーバード大学の初の女性正教授となり、天文学を研究するチームのトップになりました。
今日では、星が何でできているかを発見し、宇宙についての考え方を変えた素晴らしい天文学者として、人々は彼女を覚えています。
ハーバード大学天文台で発見された小惑星には、ペイン・ガポーシュキンと彼女の名前がつけられたものもあります。
進化する科学の世界
現代科学では、光を分解し、それぞれの波長がどれくらいか、また、黒い線(物質が吸収する特定の光)などを調べることで、それがどんな物質か、さらには温度や成分までも分かるようになりました。
宇宙のはるかかなたの星についても、星から放たれた光の分析によって、その星に何が起きているのかが解き明かされています。
エドウィン・ハッブルによって、宇宙で「光の赤い波長へのずれ」が観測された結果、宇宙がすごい早さで膨張し続けていることも示されたのです。
つまり、宇宙ははじめは小さな点で、それが爆発的に膨張した「ビッグバン」と呼ばれる現象によって誕生したと考えられるようになりました。
天文学をはじめ、科学の世界は日々進化しています。
女性として数々の苦難を乗り越えたセシリア・ペイン=ガポーシュキン博士は、私たちに科学を超えた大切なことを教えてくれました。
自分を信じて一生懸命頑張れば、偉大なことを成し遂げられる。科学者にとって、世界で最初に何かを発見できることほどの報酬はありません