カナリアは、ソーシャルディスタンス(社会的に距離を置く)という選択肢がありません。
たとえ、鳥かごの中で病気になった仲間がいても。
しかし、カナリアは、病気から群れを守るために巧妙な防衛策を進化させたと考えられています。
なんと、カナリアの免疫システムは、病気の鳥を見ただけで自動的に発動するというのです。
今回は、カナリアが身を守るために免疫力をアップさせるという驚きの仕組みについて紹介します。
カナリアの病気の予防方法とは?
研究者たちは、これまで、病気になるとさまざまな動物の行動が変わることは理解していました。
しかし、病気の仲間がそばにいることで実際に身体的反応を起こすことは明らかにはされませんでした。
そこで、この疑問を探るために、2021年にペットのカナリアを使った実験が行われ、それについての研究論文が発表されました。
カナリアの免疫システムを調査
まず、呼吸器系の病気になった数羽のカナリアを用意。
そして、これらの鳥と同じ部屋に、健康なカナリアの鳥かごを置きます。
この時、健康な鳥は、目の充血や倦怠感など目に見える症状が出ている病気の鳥を見ることができますが、彼らのケージは十分に離れたところで移らないように守られています。
次に、研究チームは、比較対象として、2つ目のグループのカナリアも部屋に入れました。
唯一の違いは、このグループは仕切り板で視界が遮られていたために、病気の鳥を見ることができなかったことです。
1ヶ月後も鳥は健康のままだった
その後、約1カ月間、研究者たちは、カナリアたちの健康状態と免疫反応を追跡調査しました。
血液検査の結果、予想通り健康な鳥たちは、一匹も病気がうつることはありませんでした。
しかし、驚くべきことに、病気の鳥を見ることができた実験グループの鳥たちにおいては、白血球の数が増加したままで免疫システムが活性化し続けていたのです。
白血球とは、体が細菌などの侵入者を撃退するために作り出す細胞で、この実験グループではさらに、免疫反応を媒介する「補体」と呼ばれる血中タンパク質値も高かったのです。
これらのタンパク質は、通常、病気に対する免疫反応で活性化されます。
つまり、鳥たちは、実際には病気になっていないにもかかわらず、まるで病気にかかっているかのように身体が反応していたのです。
病気の鳥を見るだけで免疫反応が活性化
一方で、仕切り版で視界が遮られた鳥では、免疫系に変化が見られませんでした。
今回の発見は、仲間が病気になった証拠を見ただけで、カナリアは十分に免疫反応を引き起こせることが示されました。
研究者たちは、カナリアのこの戦略が、病気にならないようにするために進化したのではないかと考えています。
この初期の免疫反応は、病気を未然に防ぐ方法として機能しているのです。
白血球を増やしたり、補体を増やしたりするのは大変なエネルギーを必要とします。
しかし、そのおかげで、これらの鳥は集団社会における多くの恩恵を受けながら、伝染病が増えるデメリットを抑えているのです。
カナリアだけではなく人間も免疫システムが活性化
2010年に行われた研究では、人間も病気の症状の画像を見ただけで白血球の活動が活発化すると示されました。
研究者たちは、この身体的反応が、人間の行動免疫システムと呼ばれるものに関連していると考えています。
私たちが、病気になりそうな汚い場所や腐った食べ物に嫌悪感を抱くのもそのためです。
さらに、このような行動的な免疫システムは、身体的な免疫反応を引き起こす引き金となっている可能性もあります。