ワインは猫のおしっこと同じにおい?

料理に役立つノウハウ

驚くかもしれませんが、ワインの成分を分析すると、バラやバター、ポップコーンなどの香りと同じ化合物、さらには猫のおしっこの匂いと似た化合物が存在することが分かったのです。

ソムリエは、ワインを飲むと「猫のおしっこの香り」をはじめ、バラやほし草、バターやポップコーンの香りなどしばしばユニークなたとえで表現をします。

まさか、ワインメーカーが、バラやバター、猫のおしっこなどをお酒に混ぜているとは思えませんし、ソムリエたちが作り話をしているだけなのでしょうか?

いいえ、違います。

以下に、ワインの不思議な香りの正体について、その香りがどこから、どうやって取り込まれたのかなどを中心に紹介します。

ワインに含まれるブドウらしからぬ芳香成分

ワインから香る芳香成分には、実にたくさんの種類があります。

たとえば、バラの香りを発生させる「ゲラニオール」や「リナロール 」、ポップコーンにバターの香りをするために使われる「ジアセチル」、ネコの尿の臭いを思わせる原因物質「4-メルカプト-4-メチル-2-ペンタノン」。これらは全てワインの中からも検出されています。

ワインをグラスに注いだり、一口飲んだりすると、これらの超軽量分子が空中に舞い上がり、私たちの鼻と口に入り、嗅覚系に拾われるのです。

私たちは、鼻から入るときの「たち香(Orthonasal smell:オルソネイザル)」、喉から鼻に出るときの「あと香(Retronasal smell:レトロネイザル)」という呼吸によってともなう2つの嗅覚経路によってこれらの香りを感じています。

ワインからあのバラの香りと同じ匂い成分を感じ取っているのです。

ワインの香り成分はどこから由来したものか

しかし、このようなブドウらしからぬ芳香成分は、そもそもどのようにしてワインに取り込まれるのでしょうか。

それは、ブドウそのものからです。

ある種のブドウの果皮、特に冷涼地のブドウには、少量のロタンドン(rotundone)が含まれています。これは、コショウの実に含まれる風味分子で、空腹の草食動物から植物が身を守るための香りだと考えられています。

植物のなかには、捕食者から自分の身を守るために化学物質を作り出して空気中に蒸発する種がたくさんあります。植物にとって、匂いはどても大事なのです。

一方で、良い匂いを使って虫を誘う植物もあります。

バラの香りの主成分であるゲラニオールやリナロールを含んでいるブドウはその一種で、これらはおそらく蜂などの受粉媒介者をブドウの花に誘い込むためのものでしょう。

ブドウの木も植物である以上、他の植物と同じような化学物質を使用するのは当然のことで、その化学物質がワインの香りとして発生しているのです。

しかし、ワインには、ブドウが自分では作れないはずの化合物が加わることもあります。

さて、ブドウ由来ではないワインの香りとはどのようなものでしょうか?

ブドウ由来ではないワインの香りとは

オーストラリア産のワインには、ユーカリの香りがするものがあります。

この香りについて科学者らは、ユーカリの木の香りの元となる化合物が、ユーカリの木立から漂ってきてブドウの果皮に付着したのだと考えています。

また、山火事の被災地では、煙の匂いの元となる揮発性物質(4-エチルグアイアコール)がブドウに付着し、ワインに現れることもあります。

ワインの生産過程で加わる香り

さらに、発酵中に放出されるアロマもあります。

微生物がブドウの糖分や栄養分を吸収し、より小さな分子へと代謝していく過程で、小さな分子の破片が大きな塊(前駆体)から切り取られて解放され、新しい化合物となって空中に放出されたものです。

このようにしてできたのが、猫のおしっこを連想させる硫黄ベースの化合物で、それがワインに入り、そして私たちの鼻に入るのです。

バターのような香りを放つ分子「ジアセチル」も同じようにして生まれたもので、それがシャルドネや映画館のポップコーンの香りの元となっています。

最後に、熟成の過程でもワインの香りの分子は作られています。

オークの木には、オイゲノール(クローブのスパイシーな香りの元となる化合物)とバニラの香りの主な成分「バニリン」が含まれており、これらの化合物はオーク樽からワインに溶け出すことがあります。

また、熟成中にワインと接触した酸素(コルクの隙間から入り込んだ微量なもの)は、熟したリンゴと同じ化合物を生成し、美しいフルーティな香りから、あまり好ましくない腐ったリンゴの香りまで、さまざまな香りを作り出すのです。

ワインから他の食品と共通した香り成分が

正直なところ、個人的にいろいろ調べても、ワインのアロマを識別するのはまだ得意ではありません。

しかし、アロマが本物であることや、その香りが何からきたものかを知ることで、グラスの中のアロマに気づくのが少し得意になるかもしれません。

それにしても、ワインに含まれる驚くべきアロマ化合物の最も興味深い点は、それがワインにだけ含まれているわけではないことかもしれません。

バラの香りの元となる化合物を覚えていますか?

「ゲラニオール」や「リナロール 」。

実は、トマトをはじめ、ラズベリーや生姜など他の多くの果物や野菜も、この化合物を生成します。

パンは熟成する工程で、バターポップコーンの分子であるジアセチルを発生させます。

また、コーヒーやチョコレートには、ワインと同じくらい多くの芳香族化合物が含まれており、それらの香もまた、他の食べ物からも感じることができるのです。

これからは、トマトソースから花の香りがしたり、コーヒーから煙の香りがすると、キッチンで作る料理や工程がいかに相互に関連し合っているかを思い知らされるでしょう。

参照元:https://youtu.be/SVfsON4nCcw