ボクシングの世界チャンピオン「シャコ」のおもしろい生態

2018年3月 5日

多くの魚のすみかとなっている海藻を覗くと、エビのような昆虫のような不思議な生き物を見ることがあります。

その名は「シャコ」。世界で最も速いパンチを生み出す海のボクシングチャンピオンです。パンチの速さは、秒速23メートルともいわれ、それは、22口径の弾丸のスピードに相当します。

小さな体から生まれる強烈なパンチは、水槽を砕き、魚を気絶させ、ときには、人の指の骨を砕くほどの威力があるため、その凶暴さからダイバーたちに恐れられているほどです。

ここでは、普段は穴の中に身を隠し、あまり見られないシャコの興味深い生態について、特殊な視覚をもつ目、そして、強力なパンチが生み出される仕組みを中心に分かりやすく紹介します。

シャコのパンチ力

シャコは、海で最強と呼ばれるパンチ力によって、敵から身を守るだけでなく、捕食や縄張り争いを繰り広げています。

エビやカニは、近距離戦に適したハサミを持っていますが、シャコの場合は、普段は胸元に折り畳んでいるハンマーのような捕脚を持ち、それを鋭く前方に突き出して獲物をひと突きにして狩りをします。

パンチの破壊力は非常に強く、この頑丈なハンマーのような爪で衝撃を与えると、獲物に相当量の損傷を与えることができます。カニの甲羅や貝の殻、岩牡蠣を細かく砕き、ときには、バラバラにして捕食するのです。

なかには、40cm近くまで成長するものもあり、大きな種になると、水槽のガラスを割ることもできます。

パンチのスピード

パンチの加速度は、102,000メートル毎秒毎秒。この数値は、裸眼や普通のカメラではとらえることができない速さで、キャビテーションを引き起こすほどです。海ではこの速さの右に出るものはいません。

キャビテーションとは、(シャコのパンチによって)短時間で周囲の水圧が変化し、液体が瞬時に沸騰して小さな気泡を発生させる物理現象です。

この小さな気泡は、低圧が水を裂き、水中に隙間を生じさせたもので、非常に熱く、その温度は太陽の表面と同じ数千度にまで達するともいわれています。さらに、泡が消失するときの勢いで衝撃波が生まれます。

打撃力

シャコの小さな体から獲物に加えられる打撃力は、1,500ニュートンにおよびます。これは、150キロのベンチプレスを持ち上げるほどに相当します。

たとえ、最初の一撃で獲物を逃がしたとしても、パンチから生じる衝撃波は、獲物を気絶させたり、殺したりするには十分だといわれています。

パンチが生み出される仕組み

強烈なパンチの秘密は、補脚の上部に存在する馬の鞍(くら)の形に似た部位にあります。

これがバネの役割をしており、パンチを打つときには、筋肉がこのバネを引いて大量のエネルギーをため込んだ後、弓矢を放つように、一気に補脚を前方に解き放つのです。

パンチが発光する?

パンチのスピードがあまり速いために、キャビテーションの気泡の消滅に伴って、ソノルミネッセンスと呼ばれる発光を生じさせることもあります。

その光は、弱くてすぐに消えてしまうために、高度な化学装置なしには検出はできません。

この発光は、気泡の温度が上昇したことで、別の化学変化が引き起こされたために生じると考えられています。

現段階では、気泡内で光が発生するのは、「水蒸気のエネルギー分子の隔離と再結合」であったり、「アルゴンと呼ばれる気体の存在」であったり、「荷電分子の振動によってプラズマが生じること」などが要因となっているのではないかといわれていますが、実のところ、明確な答えはまだ導き出されてはいません。

いずれにしても、わずか100憶分の1秒の間でしか見られない光には、まだまだ謎が残されているようです。

シャコの目の構造

シャコは、動物の世界で、最も複雑で精巧な優れた目をもつ生き物であることから、視覚の進化における研究で注目を集めています。

シャコの両目は、1つの茎から「Y」の字についており、それぞれが、最大で1万個の複眼を持ち、互いに独立して動くことができます。

さらに、人の3倍といわれる12種類の異なった光受容細胞をもち、一度に360度近くの広い視野で周囲を見ることができます。ビジュアルシステムは複雑ですが、それゆえに、視覚の情報を処理する脳の仕組みはかえって単純だともいわれています。

シャコのおもしろい生態

まるでロブスターのような見た目から、エビの仲間だと勘違いされやすいのですが、実際には、同じ甲殻類でも口脚目(こうきゃくもく)と呼ばれ、エビとは遠縁になります。

確かに、よくみると、エビやカニに見られるようなハサミはなく、補脚と呼ばれるハンマーのような物体をもち、他の甲殻類とは異なり、ときには獲物を狩るために追いかけて捕獲する姿も見られます。

シャコには二つのタイプがあり、上記のようなハンマータイプを粉砕型口脚目と呼び、その他にもトゲのついた槍(やり)のような補脚で狩りをする槍型のタイプもあります。

しかし、シャコの活動は夜行性で、エサを取る以外はほとんどの時間を海底の穴に隠れて過ごしているために、その生態はまだ謎につつまれているようです。

その他の参照元
1,Mantis shrimp
2,Sonoluminescence: When Sound Creates Light