ハエトリグサの食虫の仕組みがおもしろい!

ハエトリグサの中はどうなっているのか?動物・生き物

2枚の葉を閉じて昆虫を捕獲するハエトリグサの特殊な捕獲方法は有名です。

しかし、獲物を捕らえたハエトリグサの内部では、次に何が起こっているのでしょうか。ここでは、ハエトリグサが進化させたかなり特殊な捕食能力について紹介します。

肉食系の恐ろしい捕食者というと、植物とは縁遠い話のように感じるかもしれません。

事実、植物は通常、生物同士の食う・食われるの関係で結ばれた食物連鎖の底辺に位置します。

しかし、北米のノースカロライナ州とサウスカロライナ州にまたがる湿地帯には、捕虫能力にたけた奇妙で恐ろしい植物が生育しています。

英語で「Nenus Flytrap(女神のハエ取り罠)」と呼ばれる食中植物「ハエトリグサ」です。

彼らの特殊な捕食方法は有名で、二枚貝のような向かい合った葉をトラップとして使い、瞬きよりも速い速度で瞬時に獲物を捕まえることができます。

おもしろいのはハエトリグサがその名に反してハエをあまり食べないことです。実際に、翅のある昆虫は、彼らの食事の約5%しか占めていないといわれます。

米国の限られた場所にしか自生しない食虫植物「ハエトリグサ」

ハエトリグサ

ノースカロライナ州立大学のクライド・ソレンソン教授は、ハエトリグサの特殊な生態について次のように触れています。

彼らは、「カロライナのスパイダー・トラップ」と呼ばれるべきです。

なぜなら、ハエトリグサは、(ワシントン条約で球根の輸出入が禁止されているため)ノースカロライナ州とサウスカロライナ州の限られた場所にしか自生しておらず、実際にはそのほとんどが、ハエではなく、クモやアリを食べて生育しているからです。

犠牲者となる昆虫の悲劇は、ハエトリグサのトラップ(罠)の中をさまよう時に始まります。

おそらく、虫たちは、葉の内部の鮮やかな赤の色合いや香りに誘われて迷い込むのでしょう。

それは、彼らにとって、ただ不運としかいいようがありません。

ハエトリグサの特殊な捕獲能力

ハエトリグサのトラップ自体は、捕虫葉と呼ばれる二枚の葉が開いた口のように見え、それぞれの葉の内側の表面には、トゲのような感覚毛が3本ずつ三角形を描くように配置されています。

この感覚毛は、刺激に非常に敏感です。

昆虫が初めてこの感覚毛に接触すると、ハエトリグサは、私たちの脳内の電流のような電気信号を発し、カウントダウンを開始します。

仮に昆虫が3本のうちの1本の感覚毛に触れても、20秒から30秒以内に脱出した場合、何も起こりません。

これは、ハエトリグサが、雨粒や枯れ葉に誤って反応して葉の開閉にムダなエネルギーを浪費することを極力抑え、確実に獲物となる昆虫を捕らえるためだと考えられています。

しかし、昆虫が残りの感覚毛にも触れてしまうと、トラップが瞬時に閉まり、あっという間に葉に挟み込まれてしまいます。

この葉の開閉運動は「接触傾性」と呼ばれ、ハエトリグサは、私たちの目の瞬きの約4倍にも及ぶ速度、わずか100ミリ秒で葉を閉じることができるといわれています。

すると、葉の縁に並んだトゲのような小さな突起が急速に折れ曲がるようにして交互に折り重なって鳥かごのような罠を形成するため、昆虫は身動きがとれない状態となります。

野生には他にも肉食性の植物がありますが、ハエトリグサは、獲物を積極的に閉じ込める動きを示す数少ない植物の1つだといわれています。

昆虫を捕獲したハエトリグサの中で次に起こること

もちろん、捕らえられた昆虫は、なんとかして逃げようとします。

しかし、それはまさにハエトリグサの思うつぼです。

昆虫がもがけばもがくほど、感覚毛に触れる回数が多くなり、トラップはきつく閉じていきます。

そして、1、2時間後には、トラップは完全にロックされ、昆虫を閉じ込めてしまうのです。

すると、葉の端の細胞は水分を分泌し、2枚の葉を密着して獲物を外部から遮断します。

この時点で、トラップ内はもう口ではありません。それは私たちの「胃」のようなものです。

内部には、じわじわと消化液が溢れ出し、昆虫の柔らかい器官を溶かしていきます。

ハエトリグサは、このようにして1週間近くかけてゆっくりと栄養豊富な養分を吸い上げていくのです。

そして、葉が再び開いた時には、トラップは次の食事の準備のために、外骨格だけになった昆虫の殻を落とします。

一般的に、食事と食事の間には数か月かかることもよくあるようです。

ハエトリグサの栄養

実は、ハエトリグサの栄養となるのは、昆虫だけではありません。

他の植物の葉と同じように、トラップの表面には緑色の色素が含まれており、光合成と呼ばれるプロセスによって太陽エネルギーを糖類(化学エネルギー)に変換して生命活動に必要な養分を作り出しているのです。

それならなぜ昆虫は、不運にもハエトリグサの被害者となる必要があるのでしょうか?

それは、ハエトリグサが、水分を多く含む酸性の土壌に生育することに関係があります。

栄養素が乏しい湿地帯では、根から摂取する窒素やリンだけでは不十分なため、昆虫からいくらか栄養を補充する必要があるのです。

それらは、ハエトリグサが、嚢状葉植物やモウセンゴケのような他の恐ろしい罠をもつ肉食植物と共生している理由をも説明しています。

絶滅のおそれがある野生のハエトリグサ

ハエトリグサは、多年生植物であり、毎年、受粉のために白い花を咲かせます。

ハエトリグサの各トラップは、寿命を終えるまでに、葉を数回程度しか開閉させることができません

枯れた後は、地下茎から新たなトラップを生成します。

寿命は定かではありませんが、最大で20年、おそらくそれ以上長く生きると考えられています。

野生のハエトリソウグサは、過剰収集や生息地の破壊、および自然火災などによってその生育は脅かされており、ワシントン条約のII類に指定されています。

世界の多くの地域で鉢植え用の植物として人気がありますが、野生の個体数の減少を防ぐために、その大部分は交配種、または人工栽培されたものです。

参照元:
What’s Inside A Venus Flytrap?
Venus Flytrap