北極や南極の寒冷地にすむ動物には、氷のように冷たい水の中で過ごす種もいますが、セーターやお気に入りの毛布はありません。
いったいクジラやホッキョクグマ、皇帝ペンギンらは、防寒具がないなか、どのようにして寒さから身を守り、体温を温かく保っているのでしょうか?
以下に、極寒の海に生きる動物たちの優れた体温管理(保温)方法について紹介します。
寒冷地にくらす温血動物
南極や北極で暮らすペンギンやクマ、アザラシは温血動物です。
つまり、外がどんなに暑くても寒くても、体の中は常に同じ温度に保たれているのです。
人間やネズミも温血動物です。
自分の体温を測ったことがある人なら、体温計で温度を測ると、だいたい摂氏36度から37度くらいになることを知っているでしょう。
そして、海に住むクジラもまた、世界の他の地域に住む温血動物と同じように体温を35度から42度程度までに保つ必要があります。
しかし、ホッキョクグジラが住むのは冷たい水の中。
水がとても冷たいので熱が奪われるのが速いにもかかわらず、クジラは私たちのように体を丸めたり、セーターを着たりすることもできません。
では、クジラはどうやって体温を温かく保っているのでしょう?
「脂肪」です。
ホッキョククジラの脂肪の役割
クジラだけでなく、アザラシやセイウチなども脂肪で覆われています。
脂肪は、動物の皮膚と筋肉の間の厚い層で、クジラにおいては、胸ビレや尾ビレ、背ビレ以外はほぼ完全に分厚い脂肪で覆われています。
クジラにとっての脂肪は、人間や他の動物の脂肪とは違って特別なのです。
まず第一に厚さ。
もちろん季節によって変化しますが、イルカの脂肪の厚さは平均して4cm程度、シロイルカは10cmから15cmだといわれています。
しかしクジラのなかには、ホッキョクグジラのように脂肪層が30センチ以上もの厚さになる種もあります。
これはもう本当にたっぷりの脂肪ですね。
第二に、クジラの脂肪は、他の動物の脂肪より、硬くて弾力性があります。
最後に、クジラにとっての脂肪は動物にとってのそれとは異なる目的を果たしています。
人間にとって脂肪は食物から得た余分なエネルギーを蓄えるものですが、クジラやセイウチにとって脂肪は超分厚い冬用コートを着るようなものです。
体温を体内に閉じ込め、その熱が冷たい水中に奪われて拡散しないように、特殊な脂で覆われているのです。
実際にクジラは、分厚い脂肪のおかげで氷点下2度の水中でも快適に過ごすことができます。
氷点下ですよ!
脂肪の機能が優れているのは分かりましたが、寒い気候に住むのに脂肪が少ない他の動物はどうでしょう。
たとえば、ホッキョクグマはどうでしょう?
ホッキョクグマの毛皮の役割
ホッキョクグマの脂肪は人間の脂肪に近いので、保温にはあまり役立ちません。
代わりに、ホッキョクグマは2種類の毛皮を持っています。
毛が、超厚い内側の層と、脂性の外側の層の2層構造になっており、毛皮の内層は皮膚から出る体温を閉じ込め、外側の長い毛は、内側の毛が水で濡れないための防水の役割があります。
この2層の特別な毛が防水と防寒のためにともに働き、ホッキョクグマの体を暖かく保っているのです。
一方で、寒い地方には、皇帝ペンギンのように特別な脂肪も毛皮もない動物もいます。
群れの隊列をローテーションさせて温め合う皇帝ペンギン
氷点下の気温と風速60メートルにもおよぶ冷気のなかで、皇帝ペンギンは、脂肪や毛皮とは別の方法で体を暖かく保っています。
南極の寒い地方のペンギンは、群れをつくって身を寄せ合い、体の隙間に暖かい空気を閉じ込めて、他のペンギンの体温に包まれるのです。
もちろん、群れの外側にいるペンギンにとっては、あまり良いことではありませんが、この群れの隊形は常に動いています。
冷気にさらされた群れの外側にいるペンギンは中央に移動し、中央で体を温めたペンギンは外側に移動して次の順番を待ちます。
このように皇帝ペンギンは、群れをローテーションさせて、仲間の身体を温め、お互いに助け合っているのです。
寒冷地に生きる動物の防寒法
いかがでしたか?
寒い地方にすむ動物は、冷気に対処するためのとても賢い方法をもっています。
1847年には、ドイツの生物学者クリスティアン・ベルクマンによって、恒温動物は、寒冷地にいきるものほど大型になる傾向があることも発見されています。
これは、「ベルクマンの法則」と呼ばれ、大型になるほど体内での発熱量が大きく、体重に対する表面積の比が小さくなるので体の熱が逃げにくいためだと考えられています。
このように、生き物は、過酷な環境を生き抜くために、さまざまに体を進化させてきたのです。