この鳥は、オスがメスに求愛するときに真っ赤な喉を膨らませることで知られる「グンカンドリ」。
彼らは、大気の流れを利用して、ほぼ羽ばたかない省エネ飛行で、数ヵ月も昼夜を問わず飛び続けることができます。
グンカンドリだけでなく、アマツバメ、2gにも満たない体で年間8万キロという世界最長の距離を移動するキョクアジサシまで、地球を横断する過酷なマラソンに挑む鳥はたくさんいます。
いったい彼らは、多細胞生物にとって必要不可欠な睡眠をどのように確保しているのでしょうか?
以下に、長距離移動をする渡り鳥たちが、いつ、どのようにして眠っているのかについて紹介します。
どうやら、鳥によっては、飛びながら寝ることができたり、実際にほとんど眠らないなど、眠り方も違えば、睡眠不足に対する反応も違うようです
渡りをしながらの睡眠
研究がすすむにつれて、グンカンドリは渡りをするときにも眠りますが、睡眠時間ははるかに短くなることがわかってきました。
グンカンドリに脳の電気的活動を記録するEEG(脳波検査)をつけて、10日間の飛行期間中追跡した研究では、飛びながら眠ることが確認されました。
もしあなたが立って眠ろうとしたことがあるなら、どんな筋肉でも寝ながらコントロールし続けるのは不可能だと実感したことがあるでしょう。
しかし、鳥は私たち哺乳類のようには眠りません。
脊椎動物の睡眠の種類
脊椎動物の睡眠には大きく分けて2種類あります。
体を休めるレム睡眠と脳を休めるノンレム睡眠です。
レム睡眠は急速眼球運動の略で、寝ながら鮮明な夢を見やすい時間帯で、脳の活動が活発になる睡眠段階です。
一方で、身体は休息に入り、筋肉の緊張の低下(身体は動かない)や不規則な心拍を経験します。
このレム睡眠に比べて、睡眠時間が長いのがノンレム睡眠で、この段階では、脳は休息状態ですが、筋肉は緊張が保たれています。
飛びながら寝ることができる鳥
しかし、一部の動物、鳥類、そしてイルカのような海洋哺乳類は、筋肉を動かしたまま眠ることができることが分かってきました。
たとえばイルカや鳥類は、一度に脳の片半球ずつ休ませることで泳ぎながらや飛びながら寝ることができます。
これは半球睡眠と呼ばれ、脳の半分だけを眠らせ、もう片方の半球は覚醒させておくという意味です。
その結果、鳥類は捕食者やなんらかの危険を察知するために、起きている半球とつながっている目を開けたままにすることができます。
さらに、研究者たちは、グンカンドリが飛びながら昼寝をしていることを幸運にも発見することができました。
この昼寝には2種類あり、ひとつは10秒間続くレム睡眠で、鳥類、特に飛ぶ鳥類の場合、レム睡眠は数秒しか続きません。
ただし、グンカンドリは、飛行中に睡眠をとるにもかかわらず、ほとんど起きていることを好み、睡眠に費やす時間は全体の3%にも満たないことも分かってきました。
そして、陸に着くと、失った睡眠を取り戻すようにして、活動のほぼ半分の時間を睡眠に費やすのです。
このことは、グンカンドリが睡眠時間を調節できることを示しています。
旅の途中で時々陸に降りて休息を補給する渡り鳥も数多くいます。
渡り鳥の休息の取り方
たとえば、ニワムシクイは、夏にヨーロッパやアジア、シベリアなどで繁殖した後、冬訪れる前に、暖かいサハラ以南のアフリカまで約5000キロから8000キロも移動します。
ニワムシクイは、この渡りの途中で時々陸に降りて休息をとる睡眠戦略をとります。
そして、この鳥の睡眠戦略は疲れ具合によって異なるようです。
疲れている鳥は、頭を翼の間に挟むようにして低木や草木の中で眠ります。
こうすることで、鳥は両半球が眠っているためエネルギーを消費せず、頭をしまうことで失う熱量も少なくなるのです。
一方、あまり疲れていない鳥は、頭をしまわずに眠ることで、周囲を警戒し続けることができます。
鳥のなかには、完全に、あるいは可能な限り寝るのを避ける種もいます。
半年以上も寝ないで飛び続ける渡り鳥
たとえば、シロハラアマツバメは、200日近く飛び続けることができ、この鳥が眠っているという証拠はほとんどありません。
2013年にネイチャー誌に掲載された論文によると、シロハラアマツバメは脳活動が低下する時期があり、これが睡眠に似た行動である可能性がありそうです。
このように、飛びながら眠るグンカンドリや、休憩を挟むニワムシクイ、完全に睡眠を放棄するシロハラアマツバメまで、鳥類は翼とくちばしを持つとはいえ、その行動が大きく異なることは明らかなようです。
そして、眠り方も違えば、睡眠不足に対する反応も違います。
以下の動画では、渡り鳥の睡眠戦略について見ることができます。