月は、地球に近く、地質学的にも似ているため、宇宙移民の魅力的なターゲットのはずです。
地球からわずか3日しか離れていないため、通信の遅れはほんの数秒程度。
また、月の表面の凍った水やレゴリスからは酸素が抽出できる可能性があり、コロニー(人類の移住地)を維持しやすいはずです。
しかし一方で、大気がないため月面では、隕石の衝突のリスクや、1日で121℃から-223℃までの極端な温度変化にさらされる危険があります。
そのため、距離的に移動はしやすいかもしれませんが、月面での長期定住は、未だに可能性が見いだせていません。
一方、火星には宇宙から身を守る大気があり、月に比べて気温も穏やかです。
また、火星の地質と地球の3分の1の重力は、移動距離が長いにもかかわらず、人類の居住に有利となります。
では、実際に月と火星では、どちらの方が宇宙移民としての可能性があるのでしょうか。
以下に、月と火星へのアクセス、惑星としての資源、居住環境などの要素を、過去のミッションから得られた証拠を用いて比較し、人類の将来の移住地としてどちらの環境がより永続的なコロニーを維持できるかを考えていきましょう。
テラフォーミングの課題
火星は、長い間魅力的な選択肢としてイーロン・マスクをはじめ、探査を超えてテラフォーミング(天体を人類が居住できるように改変)まで考える人物によって強く支持されてきました。
そうはいっても火星への旅は魅力的ではありますが、手ごわい課題が山積みです。
火星への距離と通信、輸送手段の問題
地球からの距離(7,528万キロメートル)を考慮すると、火星への旅行には、 地球との惑星の配置に応じて6ヶ月以上かかります。
通信の遅延は最小で4分間に及び、リアルタイムな音声通話はできないので、前例のない緊急事態が発生した場合には、このような遅延は致命的となる可能性があります。
さらに、火星に移住地を設立するために大量のインフラを輸送する物流コストには、 燃料を消費する大型のロケットが必要なため、現在では実現不可能です。
よりアクセスしやすい天体「月」ならどうでしょうか?
宇宙移民として「月」の魅力
移動に必要な日数はわずか3日程度、通信遅延はわずか数秒です。
その近さにより、緊急事態へのより素早い対処が可能になり、必要なインフラの輸送は火星への輸送よりもはるかに手軽です。
しかし、こうした月への定住メリットにもかかわらず、科学者たちは長い間火星への移民に魅了されています。
1960年代と1970年代のアポロ計画では、約840個の月の石と土が持ち帰られ、地質学的に地球との類似性が明らかになりました。
これは、月が巨大な宇宙衝突の後に地球の破片から形成された可能性があることを示しました。
しかし、火星は地球や月とは異なる組成を持っています。
火星には保護大気がある
火星には地球と同様に保護大気がありますが、それは20億年以上前の地球の大気と同じくらいの濃度で、呼吸できるような酸素の量ではありません。
ただし、火星の大気は、危険な流星雨や有害な太陽光線から火星と入植者候補を守っています。
これは大気のない月に比べると大きなメリットとなります。月では1cm未満の小さな隕石ですら、猛スピードで落ちてくるため脅威となるのです。
これらの隕石は、月面の岩を粉々に砕き、レゴリスとして知られる研磨性の細かい塵となって月の表面を覆い、機械や人間の生命に危険をもたらします。
さらに、月では気温の変動が激しく、毎日121℃から-223℃まで変化します。
大気シールドがあり、月の3倍強い重力を持つ火星とは異なり、月の弱い重力は大気やガスをとどめておくことができないのです。
おそらく私たちは、地球の約6分の1ほどしかない重力に適応するには長い期間を必要としますが、一方で、火星は3分の1程度の違いなので適応しやすくなります。
「月 vs 火星」
月探査機とクレメンタイン探査機によるミッションは、月面の塵と氷の層の下に水が蓄積している可能性を示しました。
この水の供給は、人間の衛生管理、食糧生産、さらには呼吸可能な酸素の生成にも役立つ可能性があります。
また、破壊的なレゴリスの塵が逆に放射線シールドとして機能したり、酸素自体を供給したりする可能性があるとも示しています。
さらに、月の極は、鋭くてでこぼこした月の極は、着陸や建設を妨げる地形であるにもかかわらず、気温が安定しており、氷が埋蔵されている可能性があるため、居住には理想的である可能性も示されています。
短期的には「月」長期的には「火星」
植民地化のための旅行の実用性と相対的なコストを考慮すると、短期的には月は経済的に実現可能であるように思われます。
しかし、可能性と持続可能性の壮大なスケールにおいて、赤い惑星「火星」は、人類の長期居住のためのより賢明な選択として勝利を収めるでしょう。
とはいえ、私たち人類には、第二の地球を緊急に必要とし、今ある地球を救おうとする意欲が欠けているように見えます。
いずれにせよ、人類にとって代替となる故郷の必要性がこれまで以上に差し迫っていることは確かなようです。