ブリストルコーン・パインの木には、知られている限り世界最古の(非クローン)樹木が存在します。
この木は、969歳まで生きた聖書の最長寿者「メトシェラ(ノアの方舟で有名なノアの祖父)」の名にちなんで、メトシェラ(メトセラ)と呼ばれ、地球上で最も長生きな生命体の1つとして知られています。
メトシェラは、カリフォルニア東部の不毛の地、寒く、乾燥し、風の強いホワイト・マウンテンの高地で約5000年間生き延びてきました。
このような標高3000メートルにもおよぶ極端な生息環境が、メトシェラのような長寿を育むような場所だなんて信じられないですよね。
しかし、この厳しい天候や悪い土壌こそが、メトシェラがこれほど長く生きられた理由の大きな部分を占めているようです。
以下に、メトシェラの長寿の理由についてみていきましょう。
メトシェラの長生きの理由
世界には、ブリストルコーン・パインをはじめ、1000年以上の長寿とされるアフリカのナミブ砂漠に生育する裸子植物「ウェルウィッチア(Welwitschia)」、脊椎動物で最も長寿の400歳以上が確認されたニシオンデンザメ(greenland shark)、深海のチューブワームなど、長寿とされる生き物が存在します。
そして、これらの生き物が長生きする理由は、過酷な生育環境を生き抜くための適応が、長生きを助ける適応と同じ種類のものだからだと考えられています。
成長が遅い
ホワイト・マウンテンの高地では、年間降水量が30cm程度しかありません。
水がほとんどない高地に適応するため、メトシェラのようなブリストルコーン・パインは、他のほとんどの木の100分の1以下のスピードでゆっくりと成長するように進化しました。
一般的な木が一年で平均約46cm成長する一方で、ブリストルコーン・パインの木は、たったの0.04cmしか一年で成長しません。
また、成長が遅く、厚い細胞壁がとても密に詰まっているため、バクテリアや菌類、カイガラムシといった外敵となる生物にとっては、木材の密度が高すぎてなかなか食い破ることができないのも長寿の理由のひとつとなっています。
特殊な木の構造
この地域特有の激しい暴風雨を生き延びるために、メトシェラのようなブリストルコーン・パインは、以下のように他の樹木とは異なる奇妙で冗長な内部構造を発達させました。
他の種類の樹木の場合、風や雷によるダメージを受けると、多くの場合、根から枝への栄養分の流れが途絶えて、全体が枯れてしまいます。
しかしブリストルコーン・パインは、体が細分化されており、区切られたそれぞれが栄養分の流れを担っているのです。
こうすることで、ダメージを受けた部分が枯れてしまっても、木の他の部分への悪影響を防ぎ、全体のダメージを最小限にすることができます。
この構造は、メトシェラのような長命のブリストルコーン・パインが、残り少ない部分を維持するだけでよいため、時を刻み続けるのにも役立っています。
超高pH土壌で発芽
ブリストルコーン・パインは、ホワイト・マウンテンズの8.1phという超高pH土壌で発芽できる唯一の樹木でもあります。
この基本的な事実はまた、ブリストルコーン・パインには隣人がほとんどいないことを意味します。
そのため、他の木を焼き尽くすような100年に一度の大規模森林火災が起きたとしても、ブリストルコーン・パインに火が到達する可能性は極めて低いのです。
極限環境に生育する長寿な生き物
超高齢の極限環境生物はブリッスルコーン・パインだけではありません。
地球最古の生物の多くが、彼らの生息地のおかげで長く生きられていることが判明しました。
チューブワーム
例えば深海のチューブワームが生育する海底は、漆黒の炭化水素湧出域でほとんど競争相手がいないため、170年もの間、他者に乱されることなく生き続けることができます。
ニシオンデンザメ
ニシオンデンザメは、極寒の海を生き抜くために代謝がとてつもなくゆっくりであるため、こののんびりした生活ペースが老化を遅らせています。なかには、400歳以上の固体も発見されています。
ウェルウィッチア
また、乾燥したナミブ砂漠の真ん中で育つウェルウィッチアという植物は、ボロボロの葉を2枚しかつけません。
このシンプルな構造は、資源の乏しい環境でも維持しやすいようで、最高齢のウェルウィッチアは2000歳を超えるといわれています。
長生きの秘訣は、少なくとも時には、極端になることなのかもしれませんね。
参照元:
・The 3 Reasons This Tree Has Lived 5000 Years
・トップのイメージ画像(Flickr)